2016年6月11日土曜日

Vol.02 コードネームと進行の基礎

 コードネームを見ただけでその構成音が直ちにわかる読者は本章をスキップし次の章に進んでください。逆にそれがわからない人はここを熟読してください。いや、わかならくても、とにかく来週のジャムセッションでバッキングをしないといけないという人は、次に進んでくだってかまいません。

 2.1 音名、音階


 ハ長調を構成する七つの音の名前はドレミファソラシ。これはよろしいですね。

 しかしジャズの世界ではこれをアルファベットに置き換えた表現になれる必要があります。すなわちCDEFGABとなります。これは必須ですので覚えてください。ということで、C から始まる長調の音階をC メジャースケールといいます。

 2.2 C メジャースケールを使ってできる7 つのコード


 和音とは同時に鳴った2 つ以上の音の塊です。3 つの音で構成された和音を3 和音、4 つの音で構成された和音を4 和音といいます。

 さて、ジャズでは4 つの音を使った和音が全ての出発点となります。この基本の4 和音をどうやって作るかといえば、さきほどの7 つの音(C, D, E,...) をそれぞれを一番下に配置し、その上に1つ飛ばしでを3 つ積み上げます。

 例えば、C(=ド)を一番低い音(これをルート=根音という)にしたときのコードは【C, E, G, B】=【ド、ミ、ソ、シ】で構成されます。同様にしてハ長調の7 つの音に対して7 つの和音ができることになります。スケールの音を使ってできるコードをダイアトニックコードと言います。これに対して、スケールに含まれない音で構成されるコードをノンダイアトニックコードと言います(後述)。

 これら7 つのコードは、構成する音と音の間隔(音程)の組み合わせに応じて名前がついています。鍵盤譜ともにコードネームを見てみましょう。

C△7
Dm7
Em7
F△7
G7
Am7
Bm7-5

さて一見してわかるとおり、C スケールの音を使ってできる7 つのダイアトニックコードは、その
名称から4 種類に分類できることがわかります。すなわち

  1. メジャー7th(△ 7 のついたもの)
  2. マイナー7th(m と7 のついたもの)
  3.  ドミナント7th(7 だけがついたもの)
  4. マイナー7th フラットファイブ(m と7 と-5 のついたもの)

 このうち長調の曲においてコード進行の骨組みとなる大事なコードは、最後のマイナー7th フラッ
トファイブを除いた6つのコード、さらにいえばC メジャー7th、D マイナー7th、G7th の3つだけです。

 したがってこの3 つのコードを12 のキー全てで覚えれば、とりあえずジャズバンドでバッキングができることになります。12 のキーで各3 つずつと言うことは合計36 個のコードを覚えればよいわけで、これなら何とかなると思いませんか。

 ところで、なぜこの三つのコードが重要なのかと言えば、それらが、曲を進行させる次のような心理状態を喚起する機能を持っている(と、大部分の人が共通して経験している)からです。

C△ 7:主和音(英語でトニック)。この曲はハ長調ですよ!と調性を最も強く示し、曲が始まった、曲が終わったことを示す和音。

Dm7:下属和音(英語でサブドミナント)。C△ 7 にもG7 にも連結できる、橋渡し的和音。

G7:属和音(英語でドミナント)。不安定感を引き起こさせ、次にC△ 7 に移動し曲を終わらせますよ、という期待を与える。このドミナント7th コードの攻略がジャズ入門にとって最重要ポイントとなります。

 いかがでしょう。非常に感覚的な表現であり、自由なはずのジャズにはそぐわないと賛同しかねる人も多いと思います。しかしジャズのコード進行の基本は、この紋切り型で天下り的な決めつけから出発するのです。いかにしてこの紋切り型から逸脱し、かっこいいサウンドを生み出すか、はいましばらく我慢するとしましょう。

 2.3 コードネームの構造

 コードネームは、4和音を、3和音(下三つ)と7度の音(一番上)に分けてそれぞれの特徴を記号化したものです。その特徴とは、
  1. 3和音のルートの音名は何か
  2. 3和音はメジャーコードか、マイナーコードか
  3. 7度の音はルートから見て長7度音程か、短7度音程か
の3点です。これら以外の、響きを複雑にさせるためのテンションに関する情報は、コードネームの
後ろ、あるいは右肩に追加されていくこととなります。

 では、4 種類のダイアトニックコードについて、この三つの特徴がどのようにコードネームに反映
されているかを見ていきましょう。

 2.3.1 メジャー7th

  1. C△7の最初の文字「C」は、ルート音がC すなわちドであることを示しています(図内の一番左の矢印)。
  2. C△7には、3和音がメジャーかマイナーかを識別する記号は省略されています(図内の左から2 番目の矢印の始点が空白なのはそのためです)。何も記号がなければメジャーコードとして下から2番目の音はルートから長3度音程すなわち半音で4つ上がった音、すなわちミを弾きます。えっ?△印がメジャーを表しているんじゃないの?と思った方。次をお読みください。
  3. C△7の最後の二文字「△7」は、トップの音(4和音の4番目の音)がルートから長7度離れていることを示しています(図内の一番右の矢印)。すなわちシのことです。長7 度の数え方は、「ルートを1オクターブ上げて半音一つ下げる」の方が簡単だと思います。
 すなわちメジャー7thコードは、メジャー3和音に長7度を足したコードとなります。

 補足したいことが色々とあるのですが、まずはマイナー7th 系の説明に進みます。比較することでコードネームの仕組みを理解してください。

 2.3.2 マイナー7th


  1. Dm7の最初の文字「D」は、ルート音がDすなわちレであることを示しています(図内の一番左の矢印)。
  2. Dm7の2番目の文字「m」は、3和音がマイナーコードであることを示しています。(図内の左から2番目の矢印)。すなわち下から2番目の音は、ルートからの短3度音程、半音で3つ上がった音となります。したがってファ。
  3. Dm7の最後の文字「7」は、トップの音(4 和音の4番目の音)がルートから短7 度離れていることを示しています(図内の一番右の矢印)。短7度の数え方は、「ルートを1 オクターブ上げて半音二つ下げる」の方が簡単だと思います。従ってド。
 すなわちマイナー7th コードは、マイナー3 和音に短7 度を足したコードとなります。

 いかがでしょうか。メジャー7th コードとの比較から次のことがわかります。  
  • 3和音がメジャーであることには識別子をつけず、マイナーの時だけmをつけて明示する。
  • 7thが長7度であることは△をつけて明示し、短7度であることは識別子をつけない。
という決まりなのです。

2.3.3 ドミナント7th

  1. G7の最初の文字「G」は、ルート音がGすなわちソであることを示しています(図内の一番左の矢印)。
  2. G7には、3和音がメジャーかマイナーを表す識別子がありません。ということはこれはメジャーコードとなります(図内の左から2番目の矢印)。すなわち下から2番目の音は長3度、すなわちシです。
  3. G7の最後の文字「7」は、トップの音(4和音の4番目)がルートから短7度離れていることを示しています(図内の一番右の矢印)。すなわちファです。
 すなわちドミナント7th コードは、メジャー3 和音に短7 度を足したコードとなります。


 ところでここまで、4和音の3番目の音、すなわちC△7 のソ、Dm7のラ、G7のレに関して、コードネームは何も語ってくれていないことにお気づきですか。これらの音は、全て、ルートから数えて完全五度音程(半音で7 つ上がった音)の音なので、わざわざ記号として表す必要が無く、省略されていたのです。一方、次のコードではこの5度の音が重要な役割を果たすため、コードネームに登場することとなります。

2.3.4 マイナー7thフラットファイブ

  1. Bm7-5の最初の文字「B」は、ルート音がBすなわちシであることを示しています(図内の一番左の矢印)。
  2. Bm7-5の2番目の文字「m」は、3和音がマイナーコードであることを示しています(図内の左から2 番目の矢印)。すなわち短3 度なのでレ。
  3. Bm7-5の3番目の文字「7」は、トップの音(4和音の4番目)がルートから短7度離れていることを示しています(図内の右から2番目の矢印)。すなわちラ。
  4. Bm7-5の最後の二文字「-5」は、5度の音(4和音の3番目)がルートから減5度離れていることを示しています(図内の一番右の矢印)。フラットファイブですから、文字通り完全五度の音を半音一つ下げ、ファになります。このコードはマイナーキー(短調)の曲で、暗ーい雰囲気を出すために大活躍します。
 以上でダイアトニックコードの構成音を読み解く仕組みの説明は終わりです。C のキーにおけるもう一つのメジャーセブンスコードF △ 7 あるいは、あと二つのマイナーセブンスコード(Em7、Am7)に対しても同じ法則を適用して、自分で構成音を書き出してみてください。

 さらに言えば、12キーそれぞれが持つ7 つのダイアトニックコード(84個!)をすべて書き出すことができるようになればコード初心者は卒業ですね。

2.3.5 コードを区別する大切な音


 ここではメジャー、マイナー、ドミナントという3 種類のコードを区別するという目的にとって大切な音は何かを考えます。

 まずのルートから完全5 度である3 番目の音はすべて共通なので、区別のための情報としては使えず、除外されます。続いてルートは、これが無ければ話にならないすべての土台なのですが、コードの区別という観点からはこれも除外されます。そして残った二つの音、すなわち

 3 度と7 度。これがメジャー7th、マイナー7th、ドミナント7thを決定づける音

ということになります。少なくともこの二音だけを的確に弾けば、曲の各場面で和音の意味を正しく提示することができることになります。これをおろそかにして複雑な和音を弾いても、よいサウンドは得られないでしょう。

 これから先、この3度と7度の二音に注目し、全てのキーでこれだけを弾けるようになったあと、テンションを加えていくという練習をしていきます。簡単そうに見えますが、二つの音だけをぱっと弾くことは割と難しい作業です。

2.4 その他のコード

 コードネームから読み取るべき情報は以上のメジャー、マイナー、ドミナント以外にもいくつかありますが、まずは次の二つを押さえておけばよいでしょう。繰り返し述べますが、本章ではコードネームから構成音をすべて洗い出すための法則を列挙しているだけです。実際の曲中での使い方については次章までお待ちください。

2.4.1 ディミニッシュコード

 ルート音に"dim"と付いていればディミニッシュコードです。4 つの構成音の音程がすべて短三度
(半音で3 つ)という幾何学的な構造をしています。のちに出てくるディミニッシュスケールと関係を持ちます。

Cdim

2.4.2 オ-ギュメントコード

 ルート音に"aug"あるいは"+"と付いていればオーギュメントコードです。構成音は三つで、音程がすべて長三度(半音で4 つ)という構造をしています。
Caug

2.5 コード進行:Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ

 さきほどもちらりと触れましたが、基本となるメジャー7th、マイナー7th、ドミナント7th コードを並べて感じられる曲の進行感はかなり普遍的な心理的作用をもたらすようで、ツーファイブワン、2-5-1 あるいはIIm7-V7-I △ 7 等と呼ばれます。

 ほかにもV-I、IV-V-I、I-VI-II-V など、伝統的な曲の骨格となるダイアトニックコードの進行パターンが存在します。しかしジャズにおいてはひたすらII-V-I なのです。そのためここに焦点をあててバッキングの作り方を考えていきたいと思います。

 ここで本当にジャズにおいてII-V-I 進行が大事なのかどうか、実例を示したいと思います。

2.5.1 ブルース

 まずブルース。FのブルースでもCのブルースでも何でも同じことなのですが、ここではFのブルースを例示します。表の中のグレーに網をかけた部分がII-V-I 進行(から1 を省略したもの)です。曲の終盤に2-5 進行が出てきて、曲の解決感を出しています。

2.5.2 枯葉(Autumn Leaves)

 続いて枯葉。これは II-V-I だけで作ったような曲ですね。よくぞここまでという感じです。

2.5.3 オールザシングスユーアー(All the things you are)

 さきほどの枯葉はGmにおけるマイナー2-5が曲の大部分を占め、どこもかしこも同じコード進行で構成されていました。しかしこのオールザシングスユーアーは、1 コーラスの中で5種類のキーでのII-V-I 進行が登場するという、まさにジャズとはII-V-I、を実感させてくれる曲です。



 ほかにもいくらでも例を挙げることができますが、この辺にしておきましょう。ジャムセッションでよく取り上げられる曲は、ほとんどの場合このようなII-V-I の塊と言えます。アドリブを構築することはなかなか初心者にはハードルが高いものです。しかしバッキングならば反復練習によって本ブログに載っているいくつかのフォームはすぐに記憶できます。これをその場で組み合わせて演奏できれば、セッションピアノを十分に楽しむことができること請け合いです。

次章からいよいよキモであるバッキングパターンについて、鍵盤譜を用いて学んでいきます。


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本日のジャズピアノこの1枚

ビルエバンス / ニュージャズコンセプションズ
Bill Evans / New Jazz Conceptions

1 I Love You
2 Five
3 I Got It Bad (And That Ain't Good)
4 Conception
5 Easy Living
6 Displacement
7 Speak Low
8 Waltz For Debby
9 Our Delight
10 My Romance
11 No Cover, No Minimum (Take 1)
12 No Cover, No Minimum (Take 2)

ワルツフォーデビィもポートレイトインジャズも超名盤であることは確かですが、妙な固定観念を植え付けられるかもしれません。耽美的、叙情的、ロマンチック…などなど。確かにそうなんですが、もしあなたがエバンスを1度も聞いたことがないなら、このデビューアルバムから入って残りを聞いてみてください。どのような印象が形成されるのか、わたくしとても興味があるので、是非実験にご協力を。エバンスの知的なアジテーションが存分に味わえる逸品。




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